『講座労働法の再生』刊行について
前学会講座『講座21世紀の労働法』の刊行から17年が経ち、労働法を取り巻く環境の変化は、一層、厳しさを増している。総人口が減少局面に入り、かつ65歳以上の人口構成比が25%を超えるに至るなど高齢化はさらに急速に進み、非正規雇用の割合が4割弱に達するまでに増加の一途をたどっている。ワーキングプア問題として注目される非正規雇用の雇用安定化と処遇の改善は、雇用労働政策の中心的課題となっている。また、正社員についてみても、その年間総労働時間は今なお2,000時間を超える状況が継続し、ワークライフバランスの欠如した働き方や長時間労働による過労死・過労自殺の多発という事態が一向に改善していない。さらに、集団的労使紛争としての労働争議件数が減少の一途を辿っているが、個別労働紛争は激増し、近年では、とくに、解雇紛争、労働条件紛争だけではなく、多様なハラスメント紛争が急増している。加えて、人材養成に長期的な視点を欠き、事実上違法な就労を強要する「ブラック企業」の存在が社会問題化し、職場における労働法の定着・コンプライアンスが重要な課題となっている。
こうした雇用社会の大きな変化に対して、労働法学にも理論課題が提起されていると言ってよい。また、これまでの労働政策や立法のあり方についての真摯な検討も労働法学の課題となっている。いずれにしても労働法学は、雇用社会の抱えている問題を直視し、場合によってはその背景や原因の解明も含めた課題に正面から取り組まなければならない。現在、労働法は、改めてそのレーゾン・デートルを問われているといっても過言ではない。
日本労働法学会は、時代の節目ごとに、労働法学の理論的到達点を明らかにすべく、『労働法講座』(全7巻・1956~1959年)、『新労働法講座』(全8巻・1966~1967年)、『現代労働法講座』(全15巻・1980~1985年)、そして、『講座21世紀の労働法』(全8巻・2000年)を編集・刊行してきた。われわれは、これまでの真摯な学会の営為に敬意を払いながら、時代状況にふさわしい新たな講座を編集・刊行することとした。前回講座が意図した新たな展望の意義を確認しつつ、この間の雇用社会の変化や立法対応等も検証しながら、労働法学の意義と理論課題を明らかにすることを試みたい。そして、この過程を通じて労働法学を活性化したい。新たな講座のタイトルを『労働法の再生』と命名する所以である。
2017年5月
日本労働法学会
『講座労働法の再生』編集委員会
編集代表 和田 肇
編集委員 荒木尚志、唐津 博、島田陽一、野川 忍、野田 進、山川隆一
購入申込手順
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講座労働法の再生 - 内容と執筆者
巻 |
タイトル |
刊行年月 |
編集委員 |
第1巻 |
労働法の基礎理論 |
2017年6月 |
山川隆一・荒木尚志・村中孝史 |
第2巻 |
労働契約の理論 |
2017年6月 |
野田進・矢野昌浩・奥田香子 |
第3巻 |
労働条件論の課題 |
2017年6月 |
唐津博・有田謙司・緒方桂子 |
第4巻 |
人格・平等・家族責任 |
2017年7月 |
和田肇・名古道功・根本到 |
第5巻 |
労使関係法の理論課題 |
2017年7月 |
野川忍・中窪裕也・水島郁子 |
第6巻 |
労働法のフロンティア |
2017年7月 |
島田陽一・土田道夫・水町勇一郎 |
第1巻 労働法の基礎理論
社会経済情勢の変化に対応して、新たな体系、機能、実効性確保等が課題となっている現代労働法の基礎理論について考察する。
第1部 |
労働法の体系 |
第1章 |
労働法の現代的体系 |
荒木尚志 |
第2章 |
憲法と労働法 |
倉田原志 |
第3章 |
民法と労働法 |
山川隆一 |
第2部 |
労働関係の当事者 |
第4章 |
労働法上の労働者 |
皆川宏之 |
第5章 |
労働契約上の使用者 |
本久洋一 |
第6章 |
不当労働行為における使用者 |
池田 悠 |
第7章 |
労働組合の概念、意義、機能 |
木南直之 |
第8章 |
従業員代表制と労使協定 |
竹内(奥野)寿 |
第3部 |
労働紛争の解決と労働法の実効性確保 |
第9章 |
個別労働紛争解決制度の展開と課題 |
村中孝史 |
第10章 |
集団的労働紛争解決システムの展開と課題 |
岩村正彦 |
第11章 |
労働法の実効性確保 |
鎌田耕一 |
第4部 |
公務労働 |
第12章 |
公共部門労使関係法制の課題 |
下井康史 |
第2巻 労働契約の理論
雇用形態の多様化・流動化により、労働法の規制ツールは危機に瀕している。労働契約論の論究で、その「再生」の光を見いだす。
第1部 |
労働契約の意義と機能 |
第1章 |
労働契約の多面的機能――労働契約論のフォーマット・チェック |
野田 進 |
第2章 |
労働契約における合意――合意の保護とその射程 |
奥田香子 |
第2部 |
労働契約の成立と展開 |
第3章 |
労働契約の成立 |
所 浩代 |
第4章 |
労働契約の期間 |
橋本陽子 |
第3部 |
契約内容の決定と変更 |
第5章 |
就業規則と労働契約――最低基準効と規律効 |
山下 昇 |
第6章 |
合意による労働契約の変更 |
新屋敷恵美子 |
第7章 |
就業規則の変更による労働条件の不利益変更 |
石田信平 |
第4部 |
労働契約の展開 |
第8章 |
労働契約上の権利・義務――人権保障を内包した雇用・労働条件保障 |
川口美貴 |
第9章 |
使用者の人事権と労働者の職業キャリア・個人の生活および事情 |
小畑史子 |
第10章 |
懲戒処分と労働契約 |
淺野高宏 |
第11章 |
休職・休業と労働契約停止の理論 |
龔 敏 |
第5部 |
企業と労働契約 |
第12章 |
労働契約論における企業組織 |
矢野昌浩 |
第13章 |
企業変動・企業倒産と労働契約 |
成田史子 |
第6部 |
労働契約の終了 |
第14章 |
解雇の規制 |
高橋賢司 |
第15章 |
辞職・合意解約・定年制 |
石﨑由希子 |
第3巻 労働条件論の課題
基本的労働条件である賃金、労働時間、安全衛生に関する法制度と法理論の現代的課題を明らかにして、新たな展望を試みる。
第1部 |
賃金 |
第1章 |
賃金の法政策と法理論――賃金に対する法的規制と法政策の規範論 |
唐津 博 |
第2章 |
労基法上の賃金規制 |
浜村 彰 |
第3章 |
退職金と賞与 |
島村暁代 |
第4章 |
企業年金 |
河合 塁 |
第5章 |
最低賃金 |
神吉知郁子 |
第2部 |
労働時間 |
第6章 |
労働時間の法政策 |
緒方桂子 |
第7章 |
労働時間の法理論 |
長谷川珠子 |
第8章 |
多元的な労働時間規制 |
柳屋孝安 |
第9章 |
憲法27条と時間外・休日労働規制 |
沼田雅之 |
第3部 |
安全衛生と労災補償 |
第10章 |
安全衛生・労災補償の法政策と法理論 |
有田謙司 |
第11章 |
過労死と安全衛生・労災補償 |
川田知子 |
第12章 |
職場におけるメンタル・ヘルス不調による精神障害・自殺の補償と予防――労災保険法による補償と労働安全衛生法に基づく予防を中心に |
青野 覚 |
第13章 |
使用者の健康・安全配慮義務 |
三柴丈典 |
第4巻 人格・平等・家族責任
労働法の未来にとって重要な人格の保護、平等の実現、家族責任の充実に向けて、課題を明らかにするとともに将来展望を示す。
総 論 |
労働者の人権保障――人格権、雇用平等、家族責任に関する法理の新たな展開 |
和田 肇 |
第1部 |
人格権の保護 |
第1章 |
プライバシーと個人情報の保護 |
長谷川 聡 |
第2章 |
職場のパワーハラスメントと人格権 |
根本 到 |
第3章 |
労働者による企業コンプライアンスの実現 |
山川和義 |
第4章 |
キャリア権の意義 |
両角道代 |
第2部 |
雇用平等 |
第5章 |
雇用平等法の形成と展開 |
柳澤 武 |
第6章 |
保護と平等の相克――女性保護とポジティブ・アクション |
神尾真知子 |
第7章 |
非正規雇用の処遇格差規制 |
櫻庭涼子 |
第8章 |
差別の救済 |
斎藤 周 |
第9章 |
雇用平等法の課題 |
相澤美智子 |
第3部 |
ワーク・ライフ・バランス |
第10章 |
ワーク・ライフ・バランスと労働法 |
名古道功 |
第11章 |
年休の制度と法理 |
武井 寛 |
第12章 |
育児介護休業法の課題 |
柴田洋二郎 |
第13章 |
労働法上の権利行使と不利益取扱いの禁止 |
細谷越史 |
第5巻 労使関係法の理論課題
沈滞から抜け出せない日本の労使関係を反転させ、未来に向けて再構築するための理論課題を総合的に検討する。
序 論 |
労使関係法の課題と展望 |
野川 忍 |
第1部 |
労働組合と団体交渉 |
第1章 |
集団的労使関係の当事者 |
岩永昌晃 |
第2章 |
労働組合の法理 |
富永晃一 |
第3章 |
団体交渉権の構造 |
三井正信 |
第2部 |
労働協約 |
第4章 |
労働協約の法的構造 |
水島郁子 |
第5章 |
労働協約の規範的効力 |
桑村裕美子 |
第6章 |
労働協約の一般的拘束力 |
小嶌典明 |
第3部 |
団体行動 |
第7章 |
団体行動権の意義と構造 |
中窪裕也 |
第8章 |
争議行為の意義と正当性――序論的考察 |
石井保雄 |
第9章 |
争議行為の法的効果 |
國武英生 |
第10章 |
組合活動の法理 |
渡邊絹子 |
第4部 |
不当労働行為 |
第11章 |
不当労働行為制度の趣旨・目的 |
中窪裕也 |
第12章 |
不利益取扱いの禁止――行政救済固有の解決法理のあり方 |
野田 進 |
第13章 |
団交拒否 |
戸谷義治 |
第14章 |
支配介入 |
山本陽大 |
第15章 |
労働委員会の救済命令 |
森戸英幸 |
第6巻 労働法のフロンティア
労働政策の展開とこれまでの理論・実務を踏まえ、今後の雇用社会の将来を展望しながら、その課題と方向性を論じる。
第1部 |
労働法の改革論議 |
第1章 |
労働法改革の理論と政策 |
水町勇一郎 |
第2章 |
雇用社会の変化と労働法学の課題 |
大内伸哉 |
第3章 |
労働法改革論の国際的展開 |
濱口桂一郎 |
第2部 |
雇用政策と労働法 |
第4章 |
これからの雇用政策と労働法学の課題 |
島田陽一 |
第5章 |
若年期・高年期における就労・生活と法政策 |
小西康之 |
第6章 |
障害者雇用政策の理論的課題 |
中川 純 |
第7章 |
外国人労働者 |
早川智津子 |
第3部 |
非正規雇用と労働法 |
第8章 |
外部市場・非正規雇用と労働法制 |
大木正俊 |
第9章 |
労働者派遣 |
本庄淳志 |
第10章 |
有期雇用 |
篠原信貴 |
第11章 |
パートタイム労働法 |
阿部未央 |
第4部 |
労働法における学際的研究 |
第12章 |
企業法と労働法学 |
土田道夫 |
第13章 |
ジェンダーと労働法――ジェンダー視座アプローチの有効性と今後の課題 |
黒岩容子 |
第14章 |
社会保障法学と労働法学 |
菊池馨実 |
第15章 |
国際労働関係法の課題 |
米津孝司 |